(2013年1月22日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 日経電子版から)

[FT]オバマ2期目、最大の火種は日中紛争か

 米国の大統領は2期目に入ると、国際社会で活躍しようと決意するケースが多い。ニクソン氏は中国との関係改善に乗り出した。クリントン氏は中東和平プロセスの虜になった。そしてジョージ・W・ブッシュ氏はその中東で戦争にはまり込んだ。

■本能的に不干渉主義の大統領

 オバマ大統領が、このルールの例外になろうとしていることは明白だ。2期目の就任演説では国外の話にほとんど時間を割かなかった。大統領は明らかに自分の足跡を国内の案件で残したいと思っている。銃規制、移民制度改革、財政赤字問題、景気回復などがオバマ大統領の最重要課題なのだ。

 外交問題では、米軍兵士を外国から帰還させた大統領になることが最大の目標であるかのようだ。2期目の就任演説では「戦争の10年間は終わろうとしている」と言い切った。1期目にはイラク戦争を終わらせ、2期目にはアフガニスタンの部隊を完全撤退させる計画だ。

 オバマ大統領の考えは、発言のみならず行動にもはっきり表れている。リビアの内戦への介入はまさに不承不承だったし、この紛争に一定の距離を置く米国の態度からは「背後から導く」という有名な表現も生まれた。チャック・ヘーゲル氏を次期国防長官に指名したことも、オバマ大統領が本能的に不干渉主義であることを示している。

 ヘーゲル氏はリビアでの作戦やアフガニスタンへの増派に反対した。イランへの軍事攻撃にかなり懐疑的であることも明言している。西アフリカのマリの内戦は(リビアの)カダフィ大佐を失脚させたことの間接的な結果との見方が一部にあることも、「ヘーゲル派」の警戒感を強めている。ヘーゲル氏を支持する人々は、成功したとされる軍事介入でも、しばしば危険で予期せぬ結果をもたらすと考えている。

■米国の様子見で問題が悪化

 米国が以前ほど介入しなくなれば、世界の国々に劇的な影響を及ぼしうる。ブッシュ政権時代には、欧州の指導者は米国の実力行使に文句ばかり言っていた。皮肉なことに現在では正反対の問題に頭を悩ませている。米国は様子見を決め込み、問題が悪化するに任せているのだ。

 第1の証拠はシリアだ。米国が介入を嫌がっていることは誰の目にも明らかだ。そして米国の働きかけや支援がなければ、軍事力ではるかに劣る欧州諸国は間違いなくシリアとかかわろうとしないだろう。

 それでも、戦略面でも人道面から見ても事態は急速に悪化している。死者の数は6万人を超え、アサド大統領に反対する人々の間では過激派の武装組織が支持を得つつある。恥ずべきことに、この地では米国や北大西洋条約機構(NATO)よりも小国カタールの方が大きな影響力を行使している。

 残念ながらシリアの事例からは、地政学は真空地帯を嫌うことが浮かび上がる。無政府状態に陥った地域の秩序回復を西側諸国が支援できない時には、いずれほかの勢力が台頭するのだ。マリの過激派しかり、アフガニスタンで復活しつつあるタリバンしかりだ。

 米国は、マリの軍事行動は欧州の大国が主導すべきだとの見解を受け入れている。しかし米国は、フランスに対するいかなる軍事支援もまだ承認していない。もしフランスが苦境に陥っても、米国は支援部隊の派遣に乗り気にならないだろう(窮地に陥ったフランス軍の作戦への支援が米国をベトナム戦争に引きずり込んだことを思い出す人もいるかもしれない)。フランスは欧州連合(EU)の仲間に助けを求めるかもしれないが、米国が必ず指摘するように、軍事予算は欧州各地で削られている。過激派に対処するためアフリカの西部や北部に軍事力を動員することは不可能と西側が判断してもおかしくない。

■国内問題への専念は非現実的

 2期目のオバマ政権で米国は軍事予算を減らし、外国での軍事行動の縮小を目指すことは明らかだ。

 その結果、オバマ大統領は「偉大な米国」から撤退しつつあると非難されている。だが大統領には、こうした批判に対する理路整然とした反論がある。世界における米国の強さの基盤は強力な国内経済であり、「国造り」を優先させない限り、米国の指導力は腐った基盤の上に立つことになるというわけだ。加えて米国民は外国での戦争にうんざりし、国内の生活の向上を大統領に求めている。

 経済・社会改革に専心するというオバマ大統領の野心の問題は、それが不名誉なことではなく、非現実的かもしれないことだ。しばしの間、世界が落ち着いたら大いに都合がいい。しかし、国際的な危機は避けられず、慎重で不干渉主義の政権でさえ引きずり込まれることがある。

 近年、そうした危機をもたらすのは概して中東だった。オバマ大統領の2期目でも、やはりイランが明白な候補だろう。だが、最も大きく、最も危険な問題は東アジアで生じつつあるのかもしれない。尖閣諸島(中国名・釣魚島)を巡る論争は、日中間の戦争が危ぶまれる段階に迫っている。米国は既に、事態の沈静化を図るために何度か緊急使節団を送り込んだが、中国が島を攻撃した場合は日本の防衛に対する米国の保障が発動することも明確にしている。

 国内での社会改革と外国での戦争の終結に専念するオバマ大統領にとって、自らが米国を中国との紛争に導く事態は想像を絶するに違いない。しかし、小さいとはいえリスクは存在する。

 オバマ大統領は、尊敬するフランクリン・ルーズベルト大統領がやはり危機にひんした米国経済を救うために選ばれ、就任当初の数年間、大規模な社会改革を進めたことを思い出すといい。だがルーズベルト氏は結局、戦時の大統領になった。同じことはオバマ大統領にも起こりうる。

By Gideon Rachman