選挙の年:社会福祉法人の闇 5

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(報われぬ国)市長選の買収、社福法人理事長が暗躍 加藤裕則、上月英興 松田史朗、加藤裕則 2014年6月16日05時55分 Asahi

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人口3万人余りの青森県平川市の議会がまひ状態に陥っている。1月の市長選でお金を配ったり受け取ったりした疑いで、前市長や市議の半数近くが逮捕されたからだ。その陰に、特別養護老人ホームを認めてもらおうとねらう社会福祉法人の理事長がいた。

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■事業拡大狙い現金ばらまく

市長選を3カ月後に控えた昨年10月初めの夜、青森県弘前市にある日本料理店の個室で、3人の男がひざをつき合わせていた。

当時の平川市の大川喜代治市長(69)、平川市の有力市議(61)、平川市で特養を運営する社会福祉法人「津軽やわらぎ」の水木貞前理事長(66)だ。

ここで大川前市長の支援を頼むため、前理事長から市議に金が入った封筒が渡された。前理事長側は「市長がトイレにたった時、100万円が入った封筒を渡した」という。一方、市議は警察の調べに「自分がトイレから帰ってきたら、座布団に封筒があった」と話しているという。

特養の認可は自治体が握っている。「入居者を増やし、新たな施設を造りたかった。そのために大川さんに市長を続けてもらいたかった」。前理事長は警察にこう供述しているという。

■市議に20万円

佐藤雄市議(78)の自宅には、前理事長からの金を持って大川派の市議が訪ねてきた。玄関で「手紙だ」と封筒を手渡すと、そそくさと帰った。

封筒の外から、1万円札の模様が透けて見えた。重さを量ると20グラムほどある。封を切らずにその日のうちに返し、買収に乗らなかった。

前理事長は、票を固めようとほかの市議を次々に買収した。まず大川派の市議に20万円を渡し、その市議が別の市議にも前理事長からの20万円を配る。金はリンゴ農園の作業小屋などで受け渡しされた。

だが、前市長は今年1月の市長選で落選した。その後に買収が一気に明るみに出て、これまでに市議20人のうち9人が金を受け取った疑いで逮捕された。

■過去にも相次ぐ「津軽選挙」

前代未聞の大量逮捕は市議会をまひさせている。6月議会では、子育て支援などの補正予算を話し合う委員会を開けなくなった。

青森県では金を配って票を買う事件などが過去にも相次ぎ、「津軽選挙」とも言われる。今回はそれが社福の運営にからんで出た。

「議会は解散して再選挙で出直すべきだ。福祉を食い物にするような人の施設がなぜ認可されたのか」。親を介護している平川市内の主婦(64)は憤る。

平川市は秋田県境に接し、「津軽富士」として有名な岩木山を望む。コメとリンゴづくりが主な産業で、65歳以上の高齢者がほぼ3割を占める。

青森県では、建設や製造業で働く人がそれぞれ6万人台に減り、福祉や医療で働く人がこの数年で1割以上増えて約7万5千人になった。かつては公共事業が雇用や経済を支えていたが、いまは福祉が支える。

■特養建設「応募は無駄だ」

水木前理事長は観光バス会社を経営していたが、経営が厳しくなり2008年ごろに会社を売却した。その後、会社で使っていた土地を寄付して社福をつくり、介護の世界に転じた。

頼りにしたのが、かねて知り合いの大川前市長だ。10年1月、前市長は市長選に立候補し、前理事長は全面的に支える。

「施設が足りずに300人が入れず、そのうち100人が特養にすぐに入りたいと希望している。なんとかこれを解消したい」。前市長は選挙戦で特養の建設を訴え、初当選した。

その1カ月後、平川市は二つの特養の建設に動き出す。市は特養をつくる社福を公募するため説明会を開き、7法人が集まったが、実際に応募したのは2法人だけ。その一つが水木前理事長の社福で、競争せずに特養の建設を射止めた。

「有力者から『認可を得る法人は決まっている。応募してもむだ』と言われて参加をやめた」。ある社福の幹部は、応募しなかった理由をこう話す。

前理事長の社福は11年暮れに特養を開き、青森県から建設費の約4割にあたる1億1千万円の補助金が出た。12年度の収入約1億円のうち、介護保険からの報酬が7割を占める。(加藤裕則、上月英興)

〈社会福祉法人の私物化(これまでの連載から)〉 社会福祉法人は全国に2万法人近くあり、特別養護老人ホームや障害者施設、保育園など約16万カ所の施設の約45%を運営する。福祉や子育ての拠点だ。公共性が高いため、お金もうけを目的にしない非営利団体で、個人が所有することもできない。だが、一部の社福で、理事長が勝手に運営権を売却する「社福売買」、親族企業に仕事を回す「ファミリービジネス」などの私物化がみられる。

■市町村長の判断、大きく影響

1996年、厚生省(いまの厚生労働省)の当時の事務次官が特養の建設に補助金を出す便宜をはかり、見返りに約6千万円を受け取ったとして逮捕された。

当時は特養をつくる認可は都道府県が出し、国も補助金を出すことで影響力を持っていた。

変化が起きたのは06年度からだ。ベッド数が29床以下の地域密着型特養などの認可権限が市町村に与えられた=表。市町村長の判断が特養の建設に大きく影響するようになった。

東日本大震災で津波の被害を受けた岩手県大船渡市では昨年、特養のベッド数を20床増やすという計画が突然、白紙に戻った。

市は20床を増やす社福を公募し、有識者らでつくる第三者委員会が、応募した社福から一つを選んだ。

しかし、その後に2人の委員が「増床すれば大規模施設になり、小規模施設を地域に分散させるという県のプランに反する」などの意見を市長に出し、市長は計画そのものを撤回した。いったん選ばれた社福は不服として市長に抗議している。

市町村が特養の建設や増床を認める場合、公募をしたうえで第三者委員会が社福を選び、市町村長が最終的に決めるという手続きが多い。ただ、公募をしない市町村もある。

「公募がないとしたら、特養をつくりたい社福は最終決定の権限を持つ市長に直接働きかけるようになってしまう。サービスの質などを競い合う大切な機会を失うことは利用者にとっても決して望ましくない」。関西の社福理事長はこう話す。

認可権限の大きさは、社福と政治の癒着の温床にもなりかねない。

徳島県内のある市長は「『選挙で支援するから』『市のOBを受け入れる』と近寄ってくる社福はいくつもある。彼らはそれを営業活動の一環だと思っている」と話す。長野県内のある市の幹部も「市長の後援者などいろいろなルートで特養の認可を迫られる」と打ち明ける。

社会保障にくわしい鈴木亘・学習院大教授は「地方では福祉が主な産業になっていて、地元議員など政治とも結びつきやすい。今後は社福の運営などを第三者機関が評価したり、情報開示を進めたりすることが必要だ」と指摘している。(松田史朗、加藤裕則)

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