(報われぬ国 負担増の先に)特養の社福認可 福祉の権限、大きい首長

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2014年8月4日05時00分 Asahi

情報公開請求で開示された千葉県船橋市の文書。前市長名で、妻の社福理事長あてに特養の選考結果が書かれている(画像の一部を修整しています)写真・図版

 ◇第2部

 四国の南西部にある愛媛県宇和島市は入り組んだリアス式海岸が広がり、その地形を生かした真珠養殖などで知られる。

この5月、宇和島城などがある中心地から車で15分ほどの山すそに、80床の特別養護老人ホームがオープンした。運営するのは、隣にある高知県宿毛市の社会福祉法人(社福)だ。

2012年11月半ば、この特養をめぐり、宇和島市役所の応接室は険悪な空気に包まれていたという。

「私たちが審査して決めた社福を市長はなぜ突然、外したのか。理由を教えてもらいたい」。石橋寛久市長(64)につめよったのは、市の第三者協議会の会長や副会長ら3人の委員だった。

この協議会は、市が新しい特養の運営をだれに認めるかを決めるため、応募してきた社福を審査する。市長が地域の代表や福祉にくわしい人たちなどを委員に選び、その審査結果を受けて市長が最終的に決定する仕組みだ。

協議会は市長に対し、新しい特養の運営は市内にある社福に認めるべきだと報告していた。ところが、市長がそれをひっくり返し、宿毛市の社福に決めたのだった。

「(市内にある社福は)診療所を施設内に開くと言っているが、医者が足りないのに開けるわけがない」「個室が多すぎる」。市長はそう説明したうえで、「総合的判断だ」と繰り返したという。

■反発、委員辞任

「それなら委員をする意味がない」。説明に納得できない会長ら4人が、翌日までに委員を辞任するという異例の事態になった。

このときの選考では、四つの社福が応募してきた。協議会は12年10月に選考会を開き、13人の委員と市の総務、建設部長の合わせて15人で審査した。

結果は、14人が市内にある社福が良いという意見だった。残る1人もその社福と宿毛市の社福を同点1位にした。

「特養を建てる場所が高速道路のインターから近いなど交通の利便性が良く、施設内に診療所をつくるなど、多くの審査項目でほかの社福を引き離し、断トツだった」。委員の一人はこう主張する。

しかし、2週間ほどたった11月1日、特養の運営を任せる社福として市がホームページに載せたのは、宿毛市の社福だった。委員たちには寝耳に水の決定だったという。

市長の決定には、市議会でも疑問の声があがった。

これに対し、市長は答弁で「総合的判断」「政治判断」と繰り返し、協議会の会長らに話したのとほぼ同じ理由を説明した。「(協議会に)いろいろな業者も働きかけをしている節が多々見られた」と述べ、自ら委任した委員らへの不信をにおわせる答弁もあった。

「決定が不透明ではないか」という朝日新聞の取材に対し、市長はこう答えた。「市長が独断で、と言われる可能性は強いなあと思った。ひっくり返したのは事実。そこにいたる判断はいろいろです」

■保育園開設も

東京都心から電車で30分ほどの千葉県船橋市には都心で働くサラリーマンらが多く住み、人口は60万人を超える。その北部で、「日本最大級の木造老人ホーム」をうたう特養の建設が、9月のオープンに向けて急ピッチで進んでいる。

市から約4億円の補助金を受け、約7千平方メートルの敷地に100床を持つ特養ができる予定だ。敷地沿いの柵には「オープニングスタッフ大募集」という看板も掲げられている。

昨年1月、前市長の藤代孝七氏(71)が市長在任中に、市内にある社会福祉法人「南生会」にこの特養の建設を認めた。南生会の理事長は、前市長の妻が務めている。

そのときの審査には、前市長が委任した学者ら6人でつくる第三者委員会があたった。12年末に応募してきた九つの社福の書類などを審査し、南生会など五つの社福に新しい特養の建設を認めることを決めた。

南生会が提出した書類をつくったのは、特養の審査を担当する船橋市福祉サービス部の前部長(当時)だった。10年に市を退職し、南生会に再就職した。

妻の理事長は「市の福祉サービス公社の理事に推された。すごく優秀で、『考えに考えて(資料を)つくった』と話していた」と語る。この特養ができたら、施設長に就く予定だという。

南生会は来年春、市の土地を借りて新しい認可保育園も開く。市などから約2億円の補助金を受け、約2千平方メートルの敷地に160人の子どもを受け入れる保育園を建てる予定だ。

昨年5月、市が新しい保育園をつくる社福を募ったときに応募した。審査には学者や市の子育て支援部長ら7人の委員があたった。

委員会は前市長が退任する1週間前の7月11日に開かれ、応募してきた五つの社福から南生会が選ばれた。その決定を認める決裁印は前市長名だった。

南生会は前市長が千葉県議だった1991年にできた。11年から前市長の妻が理事長になり、いまは特養1カ所、グループホーム1カ所、保育園2カ所を運営している。

朝日新聞の取材に対し、理事長は「前市長が口添えしたわけではなく、審査で決まっており問題はない。夫が県議のときから20年間、新しい施設を自粛してきた。職員に『10年選手』が増え、給与を上げないといけないので一つの特養では間に合わなくなった。たまたま土地を借りることもできた」と説明し、「夫は理事になったこともなく、運営にかかわっていない」と話した。前市長は「審査する委員が選んだだけ。問題はない」と語った。

(松田史朗)

■請け負い、規制する自治体も

社福が特養などを建てるときには、自治体からの補助もある。介護サービスには介護保険から報酬が出るほか、認可保育園の運営費は自治体も負担する。こうした特養や保育園を運営する社福などを決める権限を持つのが、市町村長だ。

茨城県笠間市の山口伸樹市長(55)は父から引き継いだ社福「尚生会」の理事長を務め、尚生会は市内外で特養3カ所やグループホームなどを運営している。

市長には茨城県議を経て06年に就任した。市ではこの年、市長や市議、その配偶者らが役員をする会社は、市から工事や業務を請け負うのを禁じる「政治倫理条例」が定められた。

昨年5月、市の幹部や学者ら8人でつくる選定委員会が、新しい特養を運営する社福を選ぶ会議を開いた。応募した社福のなかに尚生会はなかった。

「理事長の私が申請して市長の私が決めるのは常識的におかしい。委員は実績や提案力を評価して順位をつけており、市長が別の社福を選べば住民からゆがんでいるとみられる」。山口市長はこう指摘する。

しかし、政治倫理条例を定めた自治体は多くない。斎藤文男・九州大名誉教授(憲法・行政学)によると「2割ほど」という。斎藤氏は「条例がない自治体は積極的につくっていくべきだ。補助金が入る社福の認可も、首長の配偶者や親族が役員になっていれば、規制対象にする必要がある」と話す。

(北川慧一、松田史朗)

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