(報われぬ国 負担増の先に)都心の高齢者 介護施設、どこ行けば

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Asahi2014年12月8日05時00分

写真・図版 ◇第3部 療養不安

80歳の妻は東京都品川区の自宅から電車とバスで約2時間かけ、茨城県つくば市の病院を訪れた。同い年の夫が8月に肺炎にかかり、入院しているからだ。

「遠くて、体がつらくて」。それでも、夫が心配なので週に1回は通う。

かつて夫は流通会社で働き、妻も給食をつくる仕事をしていた。年をとってからは厚生年金を夫が月に約18万円、妻が月に約12万円の合わせて約30万円受け取り、一人娘に頼らずに自宅で暮らしてきた。

大きく変わったのは昨年夏、夫が高熱を出した後に歩けなくなってからだ。認知症も進んだため、高血圧に悩む妻が自宅で介護をするのは難しくなった。

品川区内には当時、特別養護老人ホーム(特養)が8カ所あった。特養は法人税や固定資産税を免除されるなどの優遇もあって、身近な介護施設では最も安い。区内の特養は入居費が月に10万円前後で、夫の年金で十分まかなえた。

しかし、入居を望む申請者が600人以上もいた。夫の要介護度はいまは最も高い「5」だが、当時は「1」だった。介護支援の相談員から「要介護度5で、90歳以上じゃないと入れない」と言われ、あきらめざるを得なかった。

次に探したのが有料老人ホームだ。だが、入居を仲介する不動産業者から首都圏のホームのリストを見せられ、驚いた。

■一時金1200万円

「入居一時金1200万円 月額利用料21万円」(品川区のホーム)、「一時金不要 月額利用料28万円」(千葉市のホーム)……。地価が高い都市部ほど入居の費用が高かった。

入るときに払う入居一時金は、平均的な入居期間とされる5~7年の家賃相当の前払い金や敷金にあたる。月々の利用料はおもに家賃、管理費、食費だ。

両方かかるホームもあるし、一時金がないホームもある。一時金がない場合も、利用料にその分の家賃が上乗せされる。

それだけではない。「ほかにも月に5万円は見込んだほうがいい」。不動産業者にそう告げられた。

介護サービスは介護保険から9割出るが、自己負担が1割ある。訪問診療を受ければ医療費は75歳以上も自己負担が原則1割ある。さらに散髪代やおむつ代などもかかるというのだ。

結局、月額利用料が12万円のつくば市のホームを選ばざるを得なかった。夫は昨年秋にホームに移り、今年8月に近くの病院に入った。「都心の施設は縁遠い場所でした」と妻は言う。

夫婦はいま、新たな問題に直面している。自力で食べるのが困難になった夫は最近、胃に管を通して栄養をとる「胃ろう」をつくった。だが、ホームには胃ろう患者をみる態勢がなく、退院しても戻れないのだ。

新しい施設はまだ見つかっていない。「お父さん、また来るからね」。妻は不安をおさえながらそう声をかけ、病室を後にした。

■病院にチラシ

写真・図版「退院後のお住まい探しはぜひご相談を」「入居金0円! 施設設備充実!」

東京都中野区にある病院には、そんなチラシが郊外や都外の有料老人ホームなどから届く。

「どんな患者でも受け入れます」「とにかく1人紹介してほしい」。この病院で患者の相談に応じる担当者にも、こうした施設の営業担当者が連日訪れる。

営業はこの数年で急増したという。地価が安い郊外や都外では高齢者向けの施設をつくる業者が増え、入居者を確保する競争が激しくなっているからだ。

この11月、北関東に位置する前橋市で「ゲンキスマイル前橋富士見」がオープンした。高齢者にバリアフリーの集合住宅に入居してもらい、生活相談に応じたり見守りなどをしたりする「サービス付き高齢者向け住宅」(サ高住)だ。

サ高住は特養の不足などに対応するため、3年前に制度が始まった。建設費の補助や税の軽減があるため、制度が始まってから全国で5千棟以上に増えた。

ゲンキスマイルでは営業担当者が都内の病院などをまわり、入居者を募っている。入居一時金はなく、家賃や食費などを合わせた月額利用料は約9万円だ。

デイサービスを受けたときの自己負担分などを含め、入居者が払うのは月に最大12万円ほど。同じような都内の施設より3万円ほど安いという。

■「高齢者救う」

写真・図版運営会社の介護ネクスト(群馬県伊勢崎市)によると、群馬県内で運営する三つの有料老人ホームは入居者50~60人のうち約2割が東京都内から来ている。

「東京では退院後の行き場がない高齢者が多い。都外は安く施設をつくれるので所得の高くない高齢者を救うことができ、それがビジネスにもなる」。戸井田周一取締役はそう話す。

介護施設だけではない。東京都心から電車と車で2時間ほどの北関東の病院には、長く療養する患者が100人以上入院している。その半数以上が東京など首都圏から来た高齢者だ。

この病院では、担当者が都内の救急病院などをまわり顔をつないでおく。救急の治療が終わった後の行き先に困る患者がいたとき、紹介してもらうためだ。

「地元は人口も減っており、県内の患者だけではベッドが埋まらない」。病院の幹部はそう話す。

医療費や食費は都内の病院と基本的に同じだが、おむつ代や患者用の服のレンタル代などは安い。都内の病院に入院すると月に15万~20万円の自己負担になることが多いが、この病院では10万円台前半だという。

(生田大介、本田靖明)

■東京から転出超過、周辺6県が受け皿

総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、昨年、東京都から都外に転出した高齢者(65歳以上)は1万9419人いて、転入した高齢者を4937人上回る「転出超過」だった。逆に、群馬、栃木、茨城、埼玉、千葉、神奈川6県は合わせて6706人の「転入超過」で、東京を出た高齢者の受け皿にもなっている。

国立社会保障・人口問題研究所の調べでは、2005~10年に群馬、茨城、埼玉、神奈川4県に転入した75歳以上の高齢者のうち、介護施設や病院に入った人はそれぞれ3~4割を占めた。

「住所地特例」を使う高齢者も多い。高齢者が自宅のある自治体からほかの自治体の介護施設などに住所を移した際、もともと住んでいた自治体が介護や医療の公的保険からの支払いを負担する仕組みだ。

東京23区では、介護保険の住所地特例を使う高齢者が今年3月で1万5658人(23区内での移住も含む)になり、5年前の1・3倍に増えた。同じ特例を使う高齢者は、大阪市でも2266人、名古屋市でも1380人いた。

東京23区のひとつ文京区では、特例を使う高齢者443人のうち206人が都外にいる。埼玉県が59人、神奈川県が41人、千葉県が38人などだ。

「いまは東京の周りの県が高齢者を吸収している。だが、今後はどんどん難しくなるだろう」。国際医療福祉大学の高橋泰教授はそう指摘する。

埼玉、千葉、神奈川3県は25年には75歳以上の人口が10年の2倍近くに増える見通しで、東京の高齢者を受け入れる余裕がなくなるという。高橋さんは「東京で施設を増やしたり故郷への早めのUターンを促したりして、対策を急ぐべきだ」と話す。

写真・図版■有料老人ホームに入るための平均費用(都道府県別、単位は万円)

入居一時金 利用料(月額)

北海道  136.5 11.4

青森県   80.5  8.2

岩手県   52.6 11.3

宮城県  184.1 14.6

秋田県   40.3 10.7

山形県   70.3 10.6

福島県  104.1 12.2

茨城県  305.5 13.4

栃木県  118.8 13.4

群馬県  106.5 12.6

埼玉県  323.7 17.2

千葉県  314.4 16.4

東京都  918.2 21.9

神奈川県 474.3 19.6

新潟県  103.4 14.7

富山県   12   11

石川県   51   11.2

福井県  130.1 13.7

山梨県  188.6 14.3

長野県  112   13.7

岐阜県   58.6 14.1

静岡県  192   15

愛知県  114.9 15.5

三重県   24.6 12

滋賀県  292.2 16.6

京都府  479.9 17.7

大阪府  157.8 14.3

兵庫県  633   18.2

奈良県  303.7 15.8

和歌山県  46.3 10.2

鳥取県   62.3 10.2

島根県   67.8 12.5

岡山県   38.8 13.1

広島県   96.4 15.2

山口県   32.7 11.1

徳島県   37.3  9.8

香川県   55.4 12

愛媛県   45.7 11.9

高知県   22.2 10.4

福岡県  105.9 11.5

佐賀県   21    9.5

長崎県   72.1 11

熊本県   40.7  9.6

大分県   57.1  9.2

宮崎県   12.4  8.3

鹿児島県 160.3 10.3

沖縄県   25.7  9.8

(コンサルティング会社「タムラプランニング&オペレーティング」〈東京〉が、要介護の高齢者を受け入れる有料老人ホーム〈10部屋以上〉を調べ、都道府県ごとに平均額を算出した。「入居一時金」は5~7年分ほどの家賃の前払い金や敷金にあたる費用で、5133施設を調べた。「月額利用料」は家賃、管理費、食費の合計で、7726施設を調べた。両方かかる施設も含まれている。介護サービスや医療費の自己負担、おむつ代などは入っていない)

◇「報われぬ国」は原則として月曜日朝刊で連載します。来週は衆院選投開票の紙面のため、休載します。ご意見をメール(keizai@asahi.com)でお寄せください。

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