(報われぬ国 負担増の先に)保育園の現実:反響編 酷使される保育士

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2014年8月25日05時00分 Asahi

ある女性保育士は、勤務中に終わらない仕事を自宅に持ち帰る。同僚もみな同じように自宅で仕事を続けるという(画像の一部を修整しています)写真・図版

 ◇第2部

 連載でお伝えした「保育園、企業参入に障壁」「認可保育園、社会福祉法人が独占」(8月3日付朝刊、東京最終版)に対し、多くのご意見が寄せられました。これらをもとに取材したところ、社会福祉法人でも企業でも、現場の保育園は人手が足りず、保育士の給料も低いという実態がありました。保育園を増やし、待機児童を減らすための大きな課題です。

6月半ば、京都市の社会福祉法人が運営する認可保育園で、5歳の男児の頭の骨が折れる事故が起きた。

市の調べでは、体操の時間に保育士がおらず、保育資格を持たない用務員らが26人の子どもをみていた。列に並ばないのを怒った用務員が男の子を放り投げた疑いがあるという。

「どの保育園でも起こる可能性がある。ちょっとやりすぎたんやろな」。大阪府の認可保育園で働く女性保育士(33)はそう思う。

この10年ほどで五つの保育園で働いた。いまの認可保育園は社福が運営しているが、現場は人手が足りず、保育士たちは疲れ切っているという。

この保育士は0歳の子どもたちを担当している。大阪府の決まりでは、子ども3人に保育士が1人つくことになっているが、保育士が1人足りない。

着替えをさせたり、食事を食べさせたり、見回りしたり、と仕事はひっきりなしだ。2時間半のお昼寝のときも、5分に1度は子どもの口に手をあて、おなかの動きも見る「無呼吸チェック」も欠かせない。

これに行事の多さが拍車をかける。運動会や和太鼓演奏、合奏、お祭りなど年間行事が目白押し。それぞれ準備に1~3カ月かける。

「運動会は保護者を喜ばすためだから」。以前働いた保育園の園長からこう言われたことがある。

インターネットでは多くの保育園がホームページに工夫をこらし、充実した行事を紹介する。親に感動してもらうため、子どもを練習に駆り立てる。

■優しくできぬ

府の決まりでは、3歳を担当する保育士は20人、4~5歳を担当する保育士は30人の子どもを1人でみる。「子どもははしゃぐのが仕事。でも、子どもをまとめるために怒る。優しくしたくても、いられない。つい先日もお昼寝の時間なのに5歳児の合奏練習の音が聞こえていた」

悩みを抱えながら働いても、給料は手取りで月に約17万円だ。保育専門学校のときの同級生で保育士になった25人ほどのうち、いまも働いているのは自分を含めて5人しかいない。

保育園には「子ども好きです」という実習生が来る。だが、仕事に追われる保育士の姿を目の当たりにして、挫折する若者を何人も見てきたという。

厚生労働省の調査では、2012年の保育士の平均給料は月に約21万3千円で、年収は約310万円だった。毎月の給料はすべての業種の平均給料より10万円以上低かった。

国家資格を持つのに保育士をしていない「潜在保育士」は、12年度に60万人以上いたという。厚労省が保育士の仕事を希望しない人に聞いたところ、半数近くが「給料が希望に合わない」という理由を挙げた。

厚労省の予測では、このままの状態が続けば、17年度末には保育士は全国で約7万4千人足りなくなる。(鳴沢大)

■園児増えても

企業が認可保育園を運営する場合、保育士の待遇が大きな問題になる。

関西にある認可保育園で働く40歳代の保育士の女性の給料は、手取りで月に15万~16万円だ。ボーナスを合わせても年収は300万円ほどだという。

運営するのは、社福ではなく企業だ。契約社員として10年ほど勤めてきた。研修で公立保育園などの保育士と会うと、年齢や経験が同じでも年収が自分より約1・5倍あった。

朝8時半ごろから夜7時ごろまで働き、正月以外に連休はない。「保育園は黒字だから、会社は園庭を広げ、子どもの数は10年前の2倍に増えた。その分、保育士の負担は重くなった」という。

会社には給料を上げるよう求めてきた。だが、「保育以外の事業が赤字なので、保育園の給料だけ上げられない」の一点張りだ。

給料だけではない。保育園の子どもが増えたので、おもちゃを1万円分買い足そうとしたところ、なかなか認めてくれなかった。経費を抑えるためだ。

30人ほどの保育士のうち常勤の契約社員が3分の1で、残りはパート勤務だ。若い保育士が入っても、給料が安いので結婚などを機に数年で辞めてしまう。

「ボランティア精神を利用されているようだ。保育が主な事業ではない企業が運営するようになっているが、もうけ優先ならやらせないほうがいい」。この保育士はそう感じている。

元帝京大教授で、社福「加須福祉会」(埼玉県加須市)の村山祐一理事長は「企業が運営する保育園は人件費が低い」と指摘する。企業の参入が進む横浜市でのある調査では、社福の保育園は運営費のうち人件費が平均で約7割だったのに対し、企業の平均は約5割だったという。

村山理事長は「保育士には経験が必要で、一人前になるためには5年ほどかかる。同じ保育園に数年いなければ、その保育園が置かれた状況も理解できない」とも話す。(松田史朗、北川慧一)

◇「認可外」、資金難の悪循環

認可保育園に入れない子どもなどを預かる「認可外保育園」では、さらに厳しい待遇で保育士が働く。

関東地方で認可外保育園を営むNPOの代表によると、保育士の給料は手取りで月に14万円ほど。ボーナスも2万~3万円しか出せない。

「出せるものなら出したい。保育士が残ってくれるから。少ない保育士で無理に回すので辞めてしまうという悪循環だ」という。

認可保育園になれば待遇を改善できると考え、自治体と協議を続けてきた。いまの保育園の広さでは基準を満たせないため、土地を借りて設計案をつくるところまで検討は進んだ。

立ちはだかったのが建設資金だ。社福なら地元自治体が4分の3を補助する優遇をしているが、企業やNPOには適用されない。さらに、残りは厚労省の外郭団体である福祉医療機構から低金利で借りられる。

代表は機構に低金利で借りられないかと相談した。だが、ほとんどを借金でまかなう計画では、機構の審査を通らないだろうと告げられたという。

東海地方で認可保育園を運営する社福理事長によると、機構の金利は年1%に満たず、金利分を援助してくれる自治体もある。

自分の土地を寄付して保育園をつくり、夫が理事長、妻が事務長、娘が園長といった家族経営の社福も多い。「経営の素人でも家族で合わせて1千万円以上の年収になる。保育園を増やすような冒険をしなければ比較的恵まれている」

しかし、待機児童を減らすために新しい保育園をつくろうとすると、土地を借りたり買ったりしなければならない。東海地方の理事長は「億単位のお金がかかるので尻込みする社福も多い。家族経営的な体質を見直す必要がある」という。

松浦新

◆キーワード

<認可保育園>(これまでの連載から)

全国に約2万4千カ所あり、小学校入学前の子どもを預かる。保育士数や面積などの基準が定められ、市町村が運営者を審査して決める。国や自治体が運営費を出し、建設の補助金も出るので、親が払う保育料は安い(東京都の平均は月1万7500円)。

約9割を自治体や社福が運営している。政府は2000年に企業の参入も認めたが、自治体が企業の参入を認めなかったり条件を厳しくしたりして、企業の運営は2%にとどまる。都市部などでは認可保育園が足りず、企業などが運営する「認可外保育園」に約18万5千人が入るが、保育料が倍以上のところもある。

 

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