(報われぬ国)高齢者を放り出す自治体

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かつては満室でにぎやかだった養護棟。今では談話コーナーのテレビの音が聞こえる程度だ=23日午後2時15分、沖縄県、横枕嘉泰撮影写真・図版

  • 養護老人ホームの措置実情2014年1月26日20時22分Asahi

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 4月から消費税率が8%に上がり、「負担増の時代」が幕を開ける。だが、負担は超高齢化社会で報われるのだろうか。社会保障の現場から報告します。

  • (報われぬ国:1)行き場なく雑魚寝の老後

沖縄県北部にある老人ホームに、がらんとして薄暗い一角がある。鉄筋2階建てのうち2階の半分を占める養護老人ホームだ。

「昔はね、満室だった。毎日カラオケをしてにぎやかだった。すっかり人も減って。寂しいね」。サノさん(89)がぽつりと言う。

定員は50人なのに入所者は28人しかいない。30室ある一人部屋はほとんど空室で、4畳半にベッドがぽつんと置かれているだけだ。

養護老人ホームは、貧しかったり身寄りがなかったりして自力で暮らせない高齢者(65歳以上)を受け入れる。老後の安心を守る最後のとりでだ。介護が必要な高齢者が介護保険を使って入る特別養護老人ホームと違い、自治体が「措置」という名で入所を決め、費用をすべて負担する。

サノさんが入る養護とは逆に、1階と2階の残り半分を占める特養は満室だ。「養護は市町村が措置しなくなって減るばかり。特養は100人以上が入所待ちなのに」と施設長は言う。

ここの養護では、名護市などから高齢者を受け入れてきた。かつては満床に近かったが、この数年は新たな入所がなくなった。自治体による「措置控え」だ。

入所者を追い出す「措置外し」さえある。

2011年6月、沖縄県南部にある養護にいた女性(90代)の親族に、南城市から文書が送られてきた。「介護の認定をさせるように」という要請だった。

親族は市に呼び出され、「特養がいいですよ」と勧められた。いきなり環境が変わるのを心配したが、女性は措置を解除され、住み慣れた養護を後にした。

前年には、糸満市がこの養護にいた別の女性(80代)の措置を外した。息子から虐待を受け、保護されて入所したのに、再び一緒に暮らしているという。

いま、沖縄県全体で養護の入所者は定員の7割しかいない。「養護1人で生活保護4人分の財源がなくなる。措置を求められても、国が主に負担する生活保護や介護保険を利用してもらう」。県北部の市の担当者はそう打ち明ける。

措置控えは全国に広がっている。「21世紀・老人福祉の向上をめざす施設連絡会」(大阪市)が、全国の養護の施設長に昨年9月に聞いたアンケート(301施設が回答)では、60%が「定員割れ」と答えた。その原因として「行政による措置控え」という答えが29%と最も多かった。

「市の担当者から今後は措置しないと明言された」(岡山)、「予算が計上されていないと断られた」(神奈川)、「介護保険を使って在宅を続けるよう勧めている」(福岡)、「まさに責任放棄だ」(群馬)。施設長からは、生活に困る高齢者を放り出す自治体に疑問の声があがる。

■薄い布団、凍える冬

措置控えされた高齢者は行き場を失い、漂流する。

歩き始めて何日過ぎただろう。茨城県生まれのマモルさん(69)は妻のヨシエさん(71)と千葉市から故郷へ向かい、ようやく茨城県土浦市にたどり着いた。

勤めていた建設会社が倒産し、日雇いなどで働いたが、12年秋に体調を崩して職を失った。お金も底をつき、「故郷で仕事をみつけよう」と歩いて茨城をめざした。だが、100キロ近く歩き、ヨシエさんがJR土浦駅前で転んで動けなくなった。「もう歩けないよ」

「役所に助けてもらうしかない」。土浦市の社会福祉課にかけこんだマモルさんに、担当者はこう言った。「施設を探してあげるから、ちょっと待っててね」。約2時間後、施設の責任者という男が現れた。

生活保護を申請したうえで、車に乗せられ着いたのは、茨城県ひたちなか市にある「無料低額宿泊所」だった。主に生活保護を受けている人を月9万円ほどで受け入れている。

かつて民宿だった木造2階建て住宅は、壁が壊れ、塗装もはがれたまま。2人が入った8畳の部屋には薄っぺらい布団しかなく、冬は寒さで震えた。

生活保護費は通帳と一緒に施設に管理され、宿泊費などを差し引かれる。わずかに手元に残ったお金は「俺、やくざだから」とすごむ入居者にとられた。粗相をした入居者は施設の管理人に殴られていた。

昨年5月、宿泊所を逃げ出し、土浦市に助けを求めた。だが、担当者は「では、生活保護も打ち切りですよ」と言うだけ。結局、野宿生活に追い込まれた。

約1週間が過ぎ、たどり着いた水戸市に相談すると、養護に入る措置をしてくれた。「水戸で養護に入れなかったらどうなっていたか」とマモルさんは思う。

土浦市はこの5年間で新たに措置した件数がゼロだ。担当者は「住まいがない人は無料の低額宿泊所を探す以外にない。措置は時間もかかるし、予算の関係もある」と説明する。だが、水戸市の関係者は「どう考えても養護に入れるケースだ」と首をかしげる。

■「措置控えの典型だ」

「何のための養護老人ホームなんですか」。昨年2月、茨城県常陸大宮市の介護高齢課を訪れた60代の女性はいらだちを隠せなかった。市の担当者が叔父(80)の入所を受け付けてくれなかったからだ。

老人保健施設からの連絡で、市内で一人暮らしをしていた叔父が衰弱し、緊急入院していたことを知らされた。一命を取り留めたが、退院した叔父を預かった老健施設は「退所の時期なので次の住まいを決めて下さい」と求めてきた。

叔父との交流はなく、急に引きとるのは難しかった。「叔父は国民年金しか糧がなく、高額な老人ホームには入れない。自宅に戻しても、また衰弱してしまう」。県内の養護に空きがあると知り、市を訪れた。

ところが、事情を訴えても担当者は「対象外」と繰り返すばかり。「親族のあなたがいる」「叔父さんはすでに『要介護度1』なので養護には入れない」と、取りつく島もなかった。

叔父は半年後に老健を出て、いまは特養に短期間滞在する「ショートステイ」を繰り返している。ついのすみかはみつかってない。

市は「要介護度に基づく判断は県のマニュアルに沿っている」と説明する。だが、県内の養護関係者によると、他の市町村では要介護と判断された人も入所しているという。「断る理由をもっともらしくつけただけ。措置控えの典型だ」(横枕嘉泰、西井泰之)

措置控えが増えたのは、小泉政権の「三位一体改革」による地方への税源移譲がきっかけだ。国が半分、市町村が4分の1~半分だった負担が、市町村の全額負担になった。財源は国からの地方交付税で手当てされるが、財政難で他の予算に回す自治体もある。

養護は高齢者の世話があるので、市町村の負担は1人あたり月20万円前後。一方、生活保護は1人あたり月10万円前後で、国が原則4分の3負担するので、市町村の負担は軽く済む。措置控えの背景には、国と地方の負担の押しつけあいがある。

全国老人福祉施設協議会の阿比留(あびる)志郎・養護老人ホーム部会長はこう懸念する。「税金を使って整備された福祉の基盤がむだになっている。このまま措置控えが常態化すれば、高齢者の孤独死につながる可能性がある」

「報われぬ国」は原則として月曜日朝刊で連載します。ご意見をメール(keizai@asahi.com)にお寄せください。

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