(報われぬ国 負担増の先に)生活苦、重い窓口負担 無保険・無年金、駆け込み診療

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2014年11月23日05時00分 Asahi

◇第3部 療養不安

大阪市の西淀病院には、収入が減ってかけこんでくる人のほかに、そもそも公的医療保険にも入っていない「無保険」の人が訪れる。保険がないので普通の診療を受けられず、とりあえず治療代の自己負担分をただにしたり安くしたりする無料低額診療を受けるためだ。

この9月、患者にアドバイスなどをする相談員の辰巳徳子さんは、40歳代の男性の相談を受けた。会社勤めだというが、保険に入っていなかった。

8年ほど前まで国民健康保険(国保)に入っていた。だが、引っ越した際に住民票を移さず、新しい住所で保険に入り直す手続きもしなかった。自ら保険を手放してしまったのだ。

男性は血液のがんの疑いがあり、辰巳さんは無料低額診療で血液のがんもみている他の病院を紹介した。ただ、無料低額診療は治療代の3割をまかなう自己負担分を助ける仕組みで、保険から出る7割分は出ない。すぐに国保に入る手続きをしてもらった。

日本ではほとんどの人が公的医療保険に入って保険証を持ち、治療代の7~9割が保険から出る。「国民皆保険」の制度だ。

しかし、辰巳さんは、仕事や住所を転々として皆保険から外れた人を多くみてきた。自己負担どころか保険からの治療代も出ない。

「無保険の人が月に5、6人来る。運転免許も更新せず、住所も転々として自治体と関わりがなくなり、住民票さえない」

若くて健康なうちは困らない。だが、辰巳さんは「年をとって病気になれば、病院に行かなければならない。高齢化が進めば、無保険で困る人が増える」と心配する。

写真・図版厚生労働省の調べでは、2012年度に無料低額診療を受けた人は延べ約706万人いる。このうち延べ約1万8千人は無保険だった。

北海道旭川市で酒やたばこの小売店をしていた女性(66)はリウマチを抱えて暮らしてきた。症状が悪化した9月、かかりつけの市内の一条通病院から、自分で注射を打つ治療を始めてはどうかと提案された。

国保に入っているので、これまでの錠剤なら月に3千円ほどの自己負担で済んだ。注射になると自己負担は月に数万円かかる。

女性は無保険ではないが、「無年金」で収入がなかった。以前は国民年金の保険料を納めていたのに、離婚した夫が事業で失敗して生活が苦しくなり、保険料を払えない期間があったからだ。預金を取り崩しながら暮らし、残りは130万円まで減った。

医師に相談すると、無料低額診療を教えてくれた。一条通病院は、生活保護で支給される基準年収より3割多い年収(単身で170万円ほど)までの人は自己負担が無料、5割多い年収(単身で200万円ほど)までの人は半額にしている。預金は収入とみなすため、女性の預金130万円は無料の対象だった。

女性は注射を使って、症状が改善したと喜ぶ。「無料低額診療がなかったら、リウマチを我慢するしかなかった。これで少しでも仕事ができればと思います」

■収入減、生活保護に

千葉県館山市の安房(あわ)地域医療センターは、12年11月から無料低額診療を始めた。館山市では昨年、半導体工場が閉鎖されて約600人が解雇されるなど、働く場が少なくなっている。

センターを支援する亀田総合病院(千葉県鴨川市)の小松秀樹副院長は、地方では高齢化と雇用の厳しさから治療代を払えない人が増えていると感じる。

「救急車で運び込まれても検査や治療を拒否して帰ろうとする人がいる。生活保護を受ける手前の人のくらしが最も厳しい」

12年度に無料低額診療を受診した延べ約706万人のうち、延べ約440万人は生活保護を受けても通う人たちだった。病気になって収入が減り、結局は生活保護を受ける人が後を絶たないからだ。

厚生労働省が11年9月に生活保護を受け始めた人の原因を分析したところ、病気やけがが33%で最も多かった。収入の減少が28%、預貯金などの減少が25%と続いた。

医療現場では病気になった後の不安が広がる。そこで、収入が減っても治療を受けられるよう、病院、住民、自治体が協力する取り組みも始まっている。

写真・図版
治療代の支払いに困っている人の相談に応じることを知らせるポスター=北海道旭川市の一条通病院

旭川市にある一条通病院では、普通の診療を利用する約3万5千人でつくる「友の会」が09年から「たすけあい募金」を始めた。これまでに約700万円が集まり、無料低額診療を受けた患者の薬代を支援している。

市も動いた。無料低額診療の薬代の一部を補助する制度をつくり、拡充することを検討している。薬代の補助は高知市や青森市などにも広がっている。

館山市の安房地域医療センターでは、収入が低い人の相談にのる職員が、患者に保険に入ってもらったり、障害者や母子家庭向けの支援制度を紹介したりしている。

「無料低額診療で生活困窮者の相談を受けやすくなった。実情を聞けば解決策も考えられる」。責任者の香田道丸さんはそう話す。

■所得に応じた割合を

日本総研の西沢和彦・上席主任研究員の話 70歳未満の医療費の3割負担は所得の低い人にとっては重い。非正規労働者と高齢者が増えて格差が広がり、「国民皆保険」と言っても気楽に使える人とそうでない人の差がでている。所得に応じて自己負担割合を変えるなどの検討が必要だ。

◆キーワード

<医療費の自己負担> 公的医療保険は原則として医療費の7割が保険、3割が病院窓口で払う自己負担になっている。自己負担は2003年度に2割から3割に増えた。ただし、原則として小学校入学前の子どもと70~74歳は2割、75歳以上は1割になる。

高額な治療代がかかるときは高額療養費制度があり、自己負担は月収五十数万円までなら月8万円余り、収入が低い住民税非課税世帯なら月約3万5400円などの上限がある。

◇連載「報われぬ国」では、第1部で「福祉崩壊」、第2部で「福祉利権」をテーマに取材してきました。第3部では、病気になった後の医療や介護の現場から「療養不安」を考えます。随時掲載します。記事へのご意見をメール(keizai@asahi.com)などでお寄せください。(西井泰之、松浦新、松田史朗、本田靖明、生田大介が担当します)

国民皆保険にほころびが見える写真・図版

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  •  病気になっても治療代が払えず、病院窓口で払う自己負担分の治療代を無料にしたり安くしたりする病院にかけこむ人がいる。普通の診療とはちがう「無料低額診療」という仕組みだ。患者数は年間で延べ700万人を超え、ここ数年で延べ100万人近く増えた。年をとって病気になったり失業で収入が途絶えたりして、医療を受けにくくなった人たちが増えている

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