(報われぬ国 負担増の先に)総集編:下 いま出来ることは 高齢化の中で 識者に聞く

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2015年3月30日Asahi

人口が減り、お年寄りがふえていく日本のこれからの「支え合い」をどうするのか。連載「報われぬ国」総集編の後半では、日本総合研究所の藻谷浩介さんへのインタビューとともに、取材班の記者が現場での取材で感じたことをお伝えします。

■「地域で共助」広げよう 藻谷浩介氏(日本総合研究所主席研究員)

写真・図版いま、85歳以上の人口は約510万人だが、国立社会保障・人口問題研究所の予測では20年後の2035年には1015万人となる。介護を必要とする人が多くなる85歳以上の世代が2倍に増えたらどうなるのだろうか。

とりわけ大変なのが、地方から人を集めてきた首都圏だ。東京都、神奈川、埼玉、千葉各県の35年の85歳以上の人口はいまの約2・5倍の268万人に増える。かつて団塊世代が多く流入した東京の周囲の3県をみれば、増加ペースはさらに急速だ。

都会で増える高齢者を「自助」「互助」「共助」「公助」によってどう支えていけばいいのだろうか。

「自助」だけではどうにもならない。多くの高齢者は、十分な介護サービスにお金を払い続けるだけの貯金がないためだ。「互助」とは家族や親族の支援をさすが、これについても、家族が仕事を辞めざるを得ない「介護離職」に追い込まれたり、夫婦による「老老介護」を経て、最後に1人残された側が誰からも面倒を見てもらえなくなったりする。限界は明らかだ。

大事なのは「共助」を手厚くすること。地域のなかで「老老介護」を当たり前にするという考え方だ。

たとえば、地域のお年寄りの介護をした元気なお年寄りに「介護ポイント」を渡すというアイデアがある。元気なうちに人助けをして介護ポイントをため、自分に介護が必要になった時に使うことができるというものだ。家族内の介護であってもポイントの対象にすればよい。

自治会は「共助」の推進役になりやすい。会費を集めることができ、自治体から補助金が出ることもあるため、それなりに予算がある。それを一人暮らしの高齢者の見守りなど、地域ぐるみのケアに使うことができるからだ。

自治会による共助を実践しているのが、東京都立川市の北部にある「大山自治会」だ。自治会主導でグループをたくさんつくり、高齢者の見守りや、掃除や草刈りなどもしている。ボランティアに出られる人を200人ぐらい抱えていて、4年前に東日本大震災が起きた日には、その日のうちに、気になる一人暮らしの高齢者の安否確認を終えたほどの行動力がある。

公的な保険制度などで支える「公助」はどうか。

もっとも大きな資金源は年金と医療、介護の保険料だが、現役世代の人口の減少にともなって、保険料収入も細っていくため、同じサービスを維持していくことが非常に難しい。

対策のひとつは、元気な高齢者が地域で介護労働の一部を担いやすいよう、ペーパーテストに偏重した介護資格を実践的なものに変えることだ。

将来世代が返す借金である国債を発行して社会保障のお金を調達することにも限界がある。そこで提案したいのが、政府による「福祉クーポン」の発行だ。

元気なうちにクーポンを購入した人は、本人か配偶者の医療や介護が必要になった時、買った金額より割り増しの額に相当するサービスを受けることができる。クーポンを使いきれなくても相続はできないようにすれば、結果的に、裕福な人のお金の一部を介護や医療の保険に回して、所得が低い人たちの負担を減らすことができる。

使い残した人は病気や要介護にならなかったのだから、幸せだったといえる。掛け捨ての生命保険と同じと考えればよい。

(聞き手・松浦新)

*もたに・こうすけ 1964年生まれ。東大卒、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)に入り、米コロンビア大経営大学院修了。2012年から現職。全国各地をくまなく歩き、まちづくりなどをテーマに講演活動している。著書に「デフレの正体」「里山資本主義」など。50歳。

■現場で取材、記者が感じたこと

◇力ずくの徴収 国保保険料、自治体の知恵を――松浦新(52歳)

国民健康保険の厳しい保険料徴収の実態を報じた。差し押さえの急増、有効期間1カ月の保険証、生活保護者への督促などだ。

給料天引きの会社員と違い、国民健康保険には、非正規労働者や年金生活者らも広く加入する。公平を保つために保険料の徴収率を上げたい自治体の気持ちもわかるが、力ずくの徴収では、保険の原点である助け合いが崩れかねない。

昨年秋、滞納世帯数や徴収率が同じぐらいの自治体で、差し押さえ数に40倍以上の開きがあると指摘した「報われぬ国」の記事が国会でも取り上げられた。塩崎恭久厚生労働相は「温情を持って臨まなければいけない」と強引な徴収にくぎを刺したが、徴収方法は自治体しだいだ。税金や保険料の負担は増え、公的年金は減る。生活が苦しい人が増える中で保険料をどう負担してもらうのか。自治体の工夫が試されている。

◇生活苦と老後 歳出削減、まず現場の声聞け――本田靖明(42歳)

「長生きはしたくないねぇ」。80代の女性の嘆きだ。女性は大病を患って預金が尽き、生活保護を受けて暮らしていた。この国の老後は、とても生きづらい。それが、取材を通じた率直な感想だ。

ある夫婦は、住み慣れた地域の有料老人ホームに入るには年金が足りず、遠方に移り住んだ。割安な特別養護老人ホームの順番を待ち、自宅で綱渡りの療養を続ける夫婦もいた。親の介護に身を削る家族の姿もあった。一方、高齢者を受け入れる施設側は慢性的な人手不足に泣く。重労働と低賃金で、介護職は「3K」の象徴と聞かされた。

政府は歳出削減の矛先を社会保障分野に向けるが、安易な切り込みには反対だ。現場の声に耳を傾ければ、「施設から在宅へ」というお題目も、「地域包括ケア」という理想も、一筋縄でいかないことは明らかなのだから。

◇お手盛り介護 ケアマネ、独立可能な報酬を――松田史朗(50歳)

介護保険を使う高齢者らのケアプランをつくるケアマネジャーが、雇い主である事業者の利益を優先させて不必要なプランをつける「お手盛り介護」の実態を昨年2月に記事にした。

厚生労働省は対策に乗りだし、ケアマネが提供するサービスが特定の事業者に偏りすぎた場合、ケアマネの報酬を減らすペナルティーを秋から厳しくする。

ところが、「違う事業者のケアマネ同士で、提案するサービス事業者を入れ替えれば、表向きは偏らず、ルールの網をかいくぐれる」と複数のケアマネから打ち明けられた。新たなルールは「談合」で早くも骨抜きにされつつある。

お手盛り介護が横行すれば、利用者に最適なサービスが提供されず、税金や保険料も無駄に費やされる。事業者から独立してもやっていける十分な報酬にし、ケアマネを本来の姿にするのが先ではないか。

◇認知症の介護 早期ケアや負担減免、拡充を――生田大介(37歳)

認知症の人は、暴れたり徘徊(はいかい)したりといった症状が出ると、介護施設が受け入れてくれない場合がある。最後の受け皿は精神科病院だが、長期の入院で心身が弱るケースも少なくない。

「もう少し在宅で頑張れたかも。そんな罪悪感でいっぱいだった」。取材した60代女性は、認知症の夫を精神科に入れたときのことを、悔やむように言った。

最期まで自宅で暮らすのが理想だろう。だが、介護保険は、家族が担っていた介護を、社会で担うしくみだ。在宅が限界になったときに、安心して預けられる居場所はやはり必要だ。

財政の厳しさはわかるが、早めに質の高いケアをして重症化を遅らせれば、介護や医療の費用も減らせる。例えば認知症の人が少人数で共同生活を送る「グループホーム」に低所得者も入れるような負担の減免制度を拡充するなど、対策を進めるべきではないか。

◆長期連載「報われぬ国」は、これで終わります。

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