法人のプライバシー権は認められない

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「プライバシー」の法主体は法人も含むのか?
結論からいうと、法人にプライバシー権は無原則には認められません。 理由は、個人と違い、法人にも人権は認められるが、「人権の性質によって認められるものと認められないものがある」からです。 たとえば、飲酒・喫煙する権利は、個人には保障されるとして、法人にそれがありません。
民事上で問題となる「プライバシー」とは、「私生活をみだりに公開されない権利」(東京地裁昭和39年9月28日判決:「宴のあと」事件)とされ、学説上では、「自己に関する情報をコントロールする権利」と捉えられます。

この東京地裁判例の基準によれば,「私生活」なるものは法人には認められません(営業秘密は,憲法22条1項に包含される営業の自由により保護されるものであり,憲法13条の問題である「私生活」とは異なります)から,性質上法人が享有すべきものではないことになります。
国家・地方公共団体による個人情報の独占により,情報の収集・管理・目的外使用等を適正に行うべく規制する必要があることは当然ですが、法人の情報については,自然人のような規模で国家等による情報収集がなされておらず、自然人と同様に取り扱った場合の市民の不利益が著しく高まります。

法人には「私生活」なるものは存在せず,「権利の性質上」、私生活は法人にはなじみません。 そして,法人情報(企業秘密等)の保護は,先に述べた営業の自由や結社の自由(憲法21条1項)等の一内容としてとらえ,当該憲法の規定及び個別法により保護することが可能ですが、財務関連情報、労働環境情報、などは公益に照らして「プライバシー」で免れることは出来ません。 何よりも法人はプライバシーを保護されるために存在しているわけではないからです。

「法人の私生活」なるあいまいかつ濫用の危険がある概念を創出し,憲法13条により保護することは,自然人の権利を圧迫することは間違い有りません。 すなわち,今まさに議会での追求そして本ブログで情報を開示請求・団体の内情を暴露しようとすることが,当該団体のプライバシーを侵害したとして提訴される可能性を認めることになるからです。
米国連邦最高裁も「情報公開法」の解釈におけるいわゆる「法人のプライバシー権」では、明確に否定判決を下しています(March 1, 2011)。

以上のことから、法人のプライバシー権は認められないと考えます。
参考;米国連邦最高裁判所(U.S.Supreme Court)は、 「連邦通信委員会(FCC)」と「AT & T Inc.」の間で争われていた「連邦情報公開法(Freedom of Information Act:FOIA)」7(C)条にいう「personal privacy exemption」の解釈につき、裁判官の全員一致(8-0)で法人には適用しない旨の解釈判決を下した。(事件番号:No. 09-1279 )
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法人のプライバシー権は認められない への6件のフィードバック

  1. 高畠 のコメント:

    大変興味深く読ませて頂きました。
    1つ質問させて頂きたく思います。
    米国の最高裁判決と、日本の法人のプライバシー権は、どのような関係があるのでしょうか。
    記事からは読み取れませんでしたので、教えて頂きたいです。

  2. admin のコメント:

    高畠 様

    2年前の投稿をご覧頂き有り難うございます。このエントリーは前後の時期のものが背景にあってのことですが、個人の自由が保障されない独裁国家や共産主義独裁と較べ、共通の価値観をベースにおいた米国と日本の類似点を背景においたアナロジーです。

  3. 高畠 のコメント:

    ご解答ありがとうございます。

    米国の情報公開法の場面では、法人にはプライバシー権はないということですが、他の場面では、プライバシー権を有することになる可能性は排斥されていないように思えます。
    米国法において、法人のプライバシー権が完全に否定されたとはいえない状況にあると思うのですが、いかがでしょうか。

    また、日本のいわゆる情報公開法においては、不開示情報として、法人に関する情報も規定されています(行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条2号。)。
    この点について、日米における差異は、どのようにお考えでしょうか。

  4. admin のコメント:

    高畠 様

    コメント有難うございます。

    日本では法人に対する考え方は、利益追求の集団という意味合いが強過ぎるのかなという風に感じます。
    米国の最高裁が、「Supreme Court Rejects Argument that Corporations Have “Personal Privacy” Interests」http://www.justice.gov/oip/foiapost/2011foiapost04.htm
    と明確に判断していることに対して、国家機密に関する分野等を含めて例外的なことを、一般論としてのコメントをすることは適切ではないと考えます。

    日本の行政機関の保有する情報の公開に関する法律、情報公開法 5条2号は、以下の引用のように限定的なものであり、情報開示を一義的に不開示としたものではありません。したがって運用には確実な阻却要因を考慮した上でのことなのだろうと思います。
    ——————————————————————————————
    二  法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、次に掲げるもの。ただし、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報を除く。
    イ 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの
    ロ 行政機関の要請を受けて、公にしないとの条件で任意に提供されたものであって、法人等又は個人における通例として公にしないこととされているものその他の当該条件を付することが当該情報の性質、当時の状況等に照らして合理的であると認められるもの
    ——————————————————————————————
    また、
    >日米における差異は、どのようにお考えでしょうか。
    ということですが、法曹界に身を置く方とか学者に複数聞かれた方がよろしいかと思います。

    企業人にとって最も大切なことは、企業が利益を追求するだけでなく、企業の社会的責任を根底に、組織活動が社会へ与える影響に責任をもち、ステークホルダー(社会全体の利害関係者)からの要求に対して適切な意思決定をすることに尽きると思います。 説明責任のつかない行動は社会的容認が得られず、存続すべき組織ではないというくらいに企業の運用は厳正なものでならなければいけないと思います。

  5. 高畠 のコメント:

    ご解答ありがとうございます。

    提示いただいたサイトの冒頭部分を見ますと、米国最高裁は「除外規定である7(c)について、会社は本条項が規定する”personal privacy”権を享有しない」と判示しています。
    あくまで本条項におけるpersonal privacy interestを享有しないとしているに過ぎず、米国連邦憲法においてプライバシー権を享有するかどうかは結論が出ておりません。
    一般論として受け容れることはできない点はご指摘のとおりです。
    そうすると、法人のプライバシー権が認められるかどうかについては、日米の情報公開法はあまり関連がないように思えます。
    (日本の)情報公開法に関する不開示情報規定も運用面から設けられたものであるとすれば、やはり法人のプライバシー権に関する考察には関係がないのでしょう。

    なお、企業の社会的責任に関してはまさしく仰るとおりであると考えます。
    ところで、「企業」には個人企業、すなわち個人事業者も含まれると思います。
    社会的責任を果たさなければプライバシー権は認められないのでしょうか。
    このように理解することは、社会的責任という「公益」を理由として個人のプライバシー権を制限することにもつながりかねず、非常に危険な考え方であるように思えます。
    法人のプライバシー権という本旨から外れてしまいますので、ここで筆を置かせていただきます。

    ありがとうございました。

  6. admin のコメント:

    高畠様

    色々とコメント有難うございました。ブログのエントリーでは、網羅的な記述は不可能なため、強調的なものになっていて不十分なところもありますが、趣旨はご理解頂けているものと思います。

    法人が「ひと」ではないという点で、法人がプライバシーを盾に、開示すべき情報を不開示とすることを認めないというのが日米でも共通の価値観であろうかと思います。法はそういった背景で運用さるべきということではないでしょうか。法人のプライバシーが成立する例外規定も、ご指摘の点について米国の例外規定も日本とさほど変わらないように思われます。以下のリンク解説が参考になるかと思います。

    米国連邦最高裁が「情報公開法」の解釈におけるいわゆる「法人のプライバシー権」の否定判決を下す
    —————————————————————–
     本件において問題となった同法が定める開示の例外の場合とは、次の3つの場合である。
    ①連邦機関は、特権的または機密性の高い企業機密および1個人から入手した商業営利または金融取引情報(例外規定§552(b)(4))
    ②個人のプライバシーへの不当な侵害(unwarranted invasion)を構成するであろう個人的かつ医療情報ファイルおよび類似のファイル(例外規定§552(b)(6))
    ③個人のプライバシーへの不当な侵害(unwarranted invasion)を構成するであろう法執行目的で収集した記録または情報でその収集した範囲内のみのもの(例外規定§552(b)(7)(C))
    —————————————————————–
    また、個人事業主の場合、企業会計のような財務諸表が存在しないという点で、限りなく個人としての扱いを受けるのが相当と思います。したがって、個人情報保護法に基づくプライバシー権は持つことになります。ただし、その場合でも企業としての社会的責任とプライバシー権とは両立できるものと考えます。

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