福島、浜通りの介護・医療 施設あっても人足りず

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避難指示区域の概念図  2014年12月22日05時00分 Asahi

余裕あるところから運営費の傾斜配分ができない行政は、仏作って魂入れずの典型です。社会福祉法人全体の内部留保から見れば、すぐにでも改善できると思うが。写真・図版

  •  ◇第3部 療養不安

 福島県の太平洋沿岸にある浜通り地方が、介護や医療の深刻な人手不足に陥っています。2011年3月に起きた東京電力福島第一原発事故の被災地です。介護職員や看護師などを確保できないため、高齢者や患者を十分に受け入れられなくなっています。

浜通り北部の「相双地区」には、福島第一原発がある大熊、双葉両町など12市町村がある。原写真・図版発事故で多くの住民が避難し、9市町村にはいまも避難指示が出たままだ。

■65キロを車で通勤

この地区で最も大きい南相馬市に、特別養護老人ホーム(特養)の「福寿園」がある。ここで介護支援専門員として働く女性(46)はいま、約65キロの道のりを車で通い続けている。

もともと隣の浪江町に住んでいた。だが、原発事故が起き、内陸部にある福島県二本松市の仮設住宅へ家族とともに避難した。

山道は冬になると路面が凍り、慎重に運転しなければならない。会社勤めの夫は「やめてもいいんじゃないか」というが、高齢者が困るのが目にみえている。

福寿園の入居者の定員は80人だ。だが、いまは75人に絞っている。職員は74人必要なのに、働き手が避難したため、57人でやりくりするしかないからだ。

一方、入居を申請している高齢者は11月19日時点で485人もいる。「やめるのは簡単だけど……」。女性は悩み続けている。

南相馬市に住む元公務員の男性(79)は10年前に脳梗塞(こうそく)を患い、右半身にまひが残る。要介護度は2番目に高い「4」だ。自宅に妻(80)と暮らす。ずっと妻が介護してきたが、最近、約100キロ離れた宮城県内の施設に入るよう勧められている。

男性は、特養で日中の介護を受けるデイサービスや短期間入所するショートステイを利用してきた。妻も右足に障害があり、これが夫婦のよりどころだった。

ところが、12月、ショートステイが利用できなくなった。希望者が増えていっぱいになったからだ。

市内の特養5施設には入居を申請している。だが、どこも入居を待つ高齢者が多く、すぐに入るのは難しいという。

南相馬市での人手不足は介護の現場だけではない。

「東日本大震災の前だったら、あんな状態では退院させなかった」。認知症の高齢者が共同で暮らすグループホームで働く女性職員(56)はそう話す。

ここで暮らす男性が今年、肺炎にかかって3回入院した。まだ微熱が残っていたが、いずれも2週間ほどで退院したという。

市内の病院では看護師らが足りず、ベッドがあるのに患者を受け入れられなくなっている。たとえば、市立総合病院は11月末で、病床230床のうち78床を使えない状態だ。及川友好副院長は「退院できる患者は早く帰し、急患を受け入れる余裕をつくらなければならない」と話す。

■他職種に流れる

浜通り南部には、いわき市がある。人口約32万6千人は東北で3番目に多い。

原発事故では放射性物質による汚染が少なかったため、避難者の最大の受け入れ先になった。この9月で2万4159人が仮設住宅や借り上げ住宅に暮らす。

市内のホテルは、原発の廃炉作業員、復興や除染の作業員らで満室が続くなど、「復興特需」に沸く。3月に発表された公示地価では、住宅地の上昇率が全国2位になった。

ところが、介護の現場では人手不足がしのびよる。

市内の特養「ひまわり荘」では今年春、高校や専門学校を出た新卒者の採用が開所してから初めてゼロになった。職員は25人で、理想より2人少ない。補充しようと求人を出しても、いまは応募がないという。ほかの職種の給料が上がり、働き手が流れているためだ。

地元の「ハローワーク平(たいら)」によると、除染作業を含む建設業は、求人する際の基本給が平均で月22万円になる。ひまわり荘は賞与などもあるため収入を単純に比べられないが、基本給だけみると少ない。

ひまわり荘を運営する社会福祉法人は4月、全施設の職員の基本給を月4千円上げるベースアップに踏み切った。人件費は年に2千万円増えるという。鈴木正子施設長は「これ以上なら赤字です」と話す。

特養「せいざん荘」も、毎年2~3人いた新卒者の採用が今年春はゼロになった。介護主任(40)によると、「1人あたり月6回が理想」としてきた夜勤を、いまは月7~8回に増やさざるを得ない。

入浴介助などが勤務時間内に終わらず、若手職員を中心に超過勤務が常態化しているという。「介護の質をもっと高めたいが、余裕がなく難しい」と嘆く。

「景気が良くなるほど、賃金が安い介護に人が集まらなくなる。恩恵が回ってこないどころか、働き手をとられる一方です」。小玉智巳施設長はそう話す。

(伊藤弘毅)

■要介護・要支援の認定、原発事故後1.5倍に 南相馬

相双地区の12市町村のうち、いまも特養が運営されているのは、相馬市、南相馬市、新地町、広野町、飯舘村しかない。

朝日新聞は11月、この5市町村にある特養11施設に職員や運営の状況などを尋ね、10施設から回答をもらった。

10施設の職員は少なくとも計300人いるが、介護をするために各特養が理想とする職員数を計84人も下回っていた。複数回答で尋ねたところ、7施設が「職員が疲弊している」、6施設が「離職者が増えた」と答えた。

人手不足は、介護が必要な高齢者に影響する。10施設の入居者の定員は計660人だが、実際の入居者は561人にとどまっている。

8施設では「入居者の受け入れ数を定員より減らしている」という。「増設した30床分が稼働できていない」「ショートステイを減らして入居者のために人手を回しても、50床中12床は稼働していない」といった状況だ。

南相馬市は居住人口が約5万1500人(除染や廃炉などで一時滞在する作業員を除く)になり、事故前より約2万人も減った。とくに介護を担ってきた20~30代の女性が避難したままの例が多いという。

写真・図版方、人口に占める高齢者(65歳以上)の割合は、事故前の25・9%から今年12月には33・4%に上がった。要支援・要介護に認定された人は8月に3874人になり、事故前の約1・5倍に増えている。

「避難生活のストレスで認知症が進んだり、避難によって家庭で高齢者を支える力が弱まったりしたことが背景にあるのではないか」。相馬中央病院(相馬市)の森田知宏医師はそう指摘する。

日本は2025年、全国の人口に占める高齢者(65歳以上)の割合が30%を超える見通しで、年齢層の割合はいまの南相馬市に近づく。被災地で起きている危機は近い将来、日本全体の問題になる可能性もある。

朝日新聞は11月、いわき市の特養23施設にも職員や運営の状況を尋ねた。

回答した22施設では職員が計802人いて、理想とする職員数を計83人下回っていた。入居者の定員を減らしているのは1施設だった。

ここでも現場は人手不足に悩み、14施設が「職員が疲弊している」と答えた。複数回答で尋ねたところ、「職員をやりくりしてしのいでいる」が12施設、「ショートステイの受け入れを休止している」が2施設あった。

◇「報われぬ国」は原則として月曜日朝刊で連載します。ご意見をメール(keizai@asahi.com)などでお寄せください。

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