(報われぬ国 負担増の先に)総集編:上 支え合い、保つには 高齢化の中で 識者に聞く

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2015年3月23日Asahi

 「報われぬ国」は、日本が本格的な負担増時代を迎えるなかで、介護や医療など、暮らしの安心を支える現場で起きているさまざまな問題を報道してきました。高齢化でますます難しくなる「支え合い」をどう保っていくのか。連載の総集編として、2週にわたって識者や、取材にあたった記者の意見を伝えます。

■介護職員の待遇改善を 二木立氏(日本福祉大学長)写真・図版

医療福祉政策を考えるときは、歴史に学ぶことが大事だ。介護職員は2025年度に全国で約30万人不足するともいわれ、絶望的にもみえる。ただ、今の状況は1990年前後の看護師不足とよく似ている。当時、看護師は「3K」(きつい、きたない、きけん)などと言われ、病院内での地位や給料も低かった。

それが92年以降の診療報酬改定で、看護の報酬が大幅に引き上げられた。より高い配置基準(患者に対する看護師の数が多い病院ほど報酬も多くなるしくみ)も導入され、看護師が増えて労働環境がよくなった。

あわせて、4年制大学の看護学部が増え、高学歴化が進んだ。卒業後も、専門性を高める「卒後教育」を看護協会などが推し進めた。それで給与や労働条件が改善され、看護師の社会的な地位も高まる好循環になった。近年は離職率も下がり、今や花形職業だ。

介護職の場合も解決策は同じだ。介護報酬を引き上げ、介護職員の配置基準を高めるべきだ。事業者は報酬が高くなれば、正職員を増やせる。今は非正規職員も多いが、長く勤める正職員になら、技術を高めてキャリアアップさせる研修にお金を出しやすくなる。

その意味で、今年の介護報酬の大幅引き下げは、時代の流れに反する。財源がないというが、そんなことはない。日本の中間層の税や保険料の負担は欧州より少ない。介護も医療も保険料の引き上げは避けられない。低所得者には配慮しつつ、所得税の累進制強化など、高所得者により負担してもらうことが必要だ。

ケアは可能な限り自宅で受けるのが理想だが、一人暮らしなどで難しいケースもある。それでも、厚生年金をもらっているようなある程度お金のある人は、民間の有料老人ホームや「サービス付き高齢者向け住宅」などに入ることができるだろう。

問題は、とくに都会で国民年金だけで暮らすような低所得の人たちだ。安く入れる特別養護老人ホームを増やすにしても、自治体の予算などで限界がある。集合住宅の空き室や、安価な宿泊所のようなところに住んでもらい、訪問で必要な介護サービスを提供するなど、行政が工夫していく必要があるのではないか。(聞き手・生田大介)

*にき・りゅう 東京医科歯科大医学部卒。代々木病院リハビリテーション科科長などを経て、2013年から現職。専門は医療経済・政策学。近著に「安倍政権の医療・社会保障改革」。67歳。

■困窮の芽、放置しないで 藤田孝典氏(生活困窮者支援NPO「ほっとプラス」代表理事)写真・図版

超高齢化社会は、超破産社会になるのではないか。そんな懸念を抱いている。

厚生労働省の2013年の調べによると、一人暮らしの高齢者のうち、半数近くは年間収入が150万円未満だ。高齢夫婦のみの世帯でも、およそ7世帯に1世帯は収入が200万円未満だった。そうした世帯は貯蓄も乏しく、「老後破産」の予備軍といえる。

高齢者が貧困に陥るのは、低年金や無年金だけが理由ではない。年をとるほどかさむ病気の治療費や介護費が、家計の大きな負担になるからだ。

私が運営する生活困窮者支援のNPOには、もともと貧困状態にあった人だけでなく、大企業の部長や銀行の支店長などを務め、平均以上に年金をもらっている人も大勢、相談にくる。

妻にがんが見つかり、治療費で約3千万円あった預金がなくなった人、年金が月20万円以上あったが、夫婦の介護費で生活が成り立たなくなった人もいる。認知症でお金の管理ができなくなり、預金を散財したり悪徳商法にだまされたりした人も多い。要は、誰でも貧困に至る可能性があるということだ。

昔は、そうした親を子が支えたが、雇用者の3割以上が非正規という状況では、子に頼れない家庭も多いだろう。大事なのは、行き詰まった高齢者を、早めに必要な社会保障制度につなげることだ。だが、実践されているとは言い難い。

例えば生活保護。収入が生活保護の基準を下回っている人で、実際に保護を受けられているのは2~3割に過ぎない。ドイツは約6割、フランスは約9割とされる。海外では成熟国ほど、貧困の芽を早めに摘もうとする。高齢者の貧困を放置すれば、病気が進むなどしてかえって医療費や介護費が膨らみ、多額の税負担として跳ね返る、と考えるからだ。

日本も発想を転換すべきだ。行政は社会福祉法人などと連携し、収入が地域の最低生活費に満たない高齢世帯には生活保護の申請を呼びかける、といった積極的な取り組みが必要ではないか。

老後に不安がある社会はぎすぎすして、現役世代、高齢世代ともに消費が増えず、景気が悪くなる。

(聞き手・本田靖明)

*ふじた・たかのり 生活困窮者を支援するNPO「ほっとプラス」の代表理事。社会福祉士。年間100人以上の高齢者の相談にのり、生活保護につなげたり、住まい探しを助けたりしている。32歳。

■認知症ケア、しっかりと 勝田登志子氏(認知症の人と家族の会副代表)写真・図版

認知症は早期発見が大事で、早めに専門的なケアをすれば、重度化を防げる。

ところが国は4月から介護保険を見直し、介護の必要度が比較的軽い「要支援」の人向けの主なサービスを、徐々に市町村の事業に移す。今後は、ボランティアなどにも介護を担ってもらうという。プロでも難しい認知症のケアを、十分にできるとは思えない。

コスト削減が狙いだろうが、重症者が増えれば結果的に介護費用も高くつく。元の制度に戻すべきだ。

「できるだけ在宅でケアを」と国は言うが、それならもっと24時間対応の訪問介護・看護を充実させる必要がある。事業者が少ないし、呼んでもなかなか家に来てもらえず、電話での対応が多いという話も聞く。

一人暮らしや高齢者だけの世帯など、在宅介護が難しい場合も多い。だが、安く入れる特別養護老人ホーム(特養)はどこも入居待ちで、要介護度の重い人が優先だ。認知症は「軽度」でも、かえって動けるので徘徊(はいかい)などの症状が出て介護が大変だ。そういう人はなかなか特養にも入れない。

認知症の人が共同生活するグループホームもあるが、利用料が高い。他に入れるところがなく、やむなく精神科病院に長期入院しているうちに心身が弱ってしまう人も少なくない。低所得の人でも入れる施設をもっと増やす必要がある。

順番を待ってやっと特養に入れても、暴れるなどの認知症の症状があると、「うちでは見られない」と追い出されることがある。「徘徊するから」と部屋に外から鍵をかける施設もあった。少ない職員では手が回らず、現場は疲弊している。介護報酬を手厚くし、ケアの質を高めるべきだ。

国は財源不足だと言うが消費増税の前にできることはある。病気など弱い立場の人を支えるのが政治だ。税金の使い方を変え、福祉に重点的に配分すべきだ。お金持ちや大企業には多く納税してもらえばいい。

2025年には国内の認知症の人が約700万人になるといわれ、誰にとっても身近な問題だ。認知症になっても、笑顔でいきいきと暮らせる社会にしていかないといけない。 (聞き手・生田大介)

*かつだ・としこ 1982年に「認知症の人と家族の会」の富山県支部を設立し、現在まで事務局長。2005年には本部の副代表に。厚生労働省の社会保障審議会介護保険部会の委員なども務めた。70歳。

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