(報われぬ国 負担増の先に)認知症 1年半、8カ所転々

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2014年12月29日05時00分 Asahi

写真・図版81歳の夫は認知症の妻の受け入れ先が見つからず、苦労した。妻は自宅にいたとき、症状が進むのを抑えるために写経をしていたという=富山市

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 ◇第3部 療養不安

この1年半、認知症の妻(80)はのべ8カ所の病院や介護施設を転々としてきた。富山市に住む夫婦は妻の受け入れ先がなかなかなくて、困り果てている。

それまでは夫(81)が自宅で介護してきたが、妻の状態が悪化し、世話しきれなくなった。ところが、興奮したり徘徊(はいかい)したりする症状があったため、施設も受け入れにくいというのだ。

夫は長く建築関係などの仕事をして、妻とともに3人の子供を育てた。退職した後はあちこち海外旅行に行くおしどり夫婦だった。

妻が認知症と診断されたのは8年ほど前だ。症状は徐々に進み、3~4年前には、どこから家に入ればいいかや、名前を書いても自分の歯ブラシがわからないような状態になった。

昨年7月、妻は脳梗塞(こうそく)になり、救急病院に入った。それが、行き場を求めて苦悩する生活の始まりだ。

救急病院では1週間ほどで「治療が終わったので」と退院を求められた。妻は体力が落ちてトイレや風呂に自力で行けなくなり、自宅での介護は難しい。夫は妻の受け入れ先を探した。

■どこも入居待ち

しかし、手厚い介護を受けられる特別養護老人ホーム(特養)は、富山県内で2千人以上の入居待ちがいる。リハビリをする介護老人保健施設(老健)や長く入れる療養型病院などもまわったが、「その症状では、うちではみきれません」などと断られた。

介護施設に短期間入るショートステイを使った後、知人の紹介でようやく老健に入った。安心したのもつかの間、わずか1週間ほどで電話がかかってきた。

「奥さんの症状ではお世話できない。明日、精神科病院に移すので立ち会ってほしい」。問題になったのは、興奮したり徘徊したりする症状だったようだ。妻は夫の姿が見えないと、「お父さん、お父さん」と施設内を動き回ることがあったという。

入院した精神科病院は男性患者が多かった。3~4畳の面会室でしか妻と会えず、不安がつのる。自治体が設置する地域包括支援センターに相談し、一般病院の精神科に移った。

今年6月、順番待ちをしていた特養に入居できた。だが、今度もいられたのは約1週間だけだ。けいれんを起こして病院に運ばれ、治療後に戻ろうとしたら、「うちではもう面倒をみられない」と拒まれた。

妻はいま、一般病院の精神科に戻っている。日中は車いすで過ごし、食事はおかゆで、オムツを使う。

1年ほど前は自力で立ち、普通の食事をとり、介助を受けてトイレにも行けた。長い入院で体は弱ってしまったが、夫は「病院にいられるだけでありがたいと思わなければ」と話す。

ただ、病院からも「そろそろ退院を」と言われている。次のあてはない。夫も7月に肝臓がんの手術を受け、体調はすぐれない。「認知症の人が病院から介護施設などに無理なく移れるような中間的な施設があればいいんですが。先行きには不安しかありません」という。

■61歳で入院

熊本市の男性(66)は9年前、若年性認知症と診断された。公務員だったが、仕事の段取りをつけるのが難しくなり、退職せざるを得なかった。

妻(62)が自宅で世話をしてきた。徐々に症状が進み、大通りの赤信号を渡ったり、自転車で迷って20~30キロ先で発見されたり。力は強いので、妻が行動を抑えるのは難しかった。

かかりつけの医師らに勧められ、男性は61歳のときに精神科病院に入った。妻は「命の危険があったし、わたしが24時間見守るのは無理だった」という。

入院後も、院内を歩き回ったりトイレに閉じこもったりした。職員が3人がかりで風呂に入れることもあったという。

入院から2年後、病院の勧めもあって特養3カ所に申し込もうと電話したが、症状を話すと2カ所から断られた。もう1カ所は申し込みを受け付けたが、その後の連絡は来ないままだ。

入院は4年に及び、ようやく昨年10月、病院から紹介されて特養に移った。体力が落ちて車いすから自力で立ち上がれないぐらいになっていたので、すんなりと入居が認められたのだ。

要介護度は入院時の「2」から、最も重い「5」になった。「ここまで(体の機能が)落ちないと、行き場がなかったのかな」。妻は複雑な思いを抱える。

いまの特養は入居者が少人数で家庭的な雰囲気だ。病院では風呂は決められた時間に順番に入ったが、ここは1人ずつ様子をみて入れてくれる。「人間的に過ごせる。元気なうちに受け入れてくれる施設があればよかった」と妻はいう。

実は、夫を精神科に入院させる前、介護施設に日中入るデイサービスを試した。だが、まわりは70~80歳代ばかりで、ボールを使った遊びをしたり、みんなで童謡を歌ったり。まだ60歳ぐらいだった夫はなじめず、二度と行かなかった。

若年性認知症の人が運動やボランティアをできる場があれば、夫の生きがいになる。自分も仕事や息抜きができるので、もう少し自宅で介護できたかもしれない。妻はそう考えている。「夫は病院のほかに行くところがなかった。若年性認知症の人の行き場をつくってほしい。本当にそう思います」

(生田大介)

■精神科への入院増加

厚生労働省によると、国内の高齢者(65歳以上)の約15%が認知症と推計され、その総数は2012年時点で約462万人にのぼる。65歳未満の若年性認知症も09年の調査で約3万8千人と推計されている。

一人暮らしや夫婦だけの高齢世帯が増え、自宅で介護が受けられずに介護施設や病院に入る人も多い。厚労省が10年時点で日常生活に支障をきたす症状などがある認知症の高齢者の居場所を調べたところ、在宅の人と施設や病院にいる人がほぼ半々だった。

認知症の人が自宅以外で暮らす場合、特養や老健などが多い。だが、興奮したり徘徊したりするなど症状が重い人は敬遠される例もある。そうした人も受け入れているのが、精神科病院や一般病院の精神科だ。

これらに入院する認知症の人は11年に約5万3千人になり、15年前の約1・9倍に増えた。富士通総研が昨年、精神科病院に聞いた調査では、認知症の人が入院した理由(複数回答)は、「(興奮や徘徊など)行動・心理症状の悪化」が80%と最も多く、「介護者の事情(家庭・地域・施設での対応困難)」が42%、「家族の疲弊」が34%あった。

厚労省の11年の調査では、精神科にいる認知症の人の入院期間は1年以上が6割を占め、5年以上でも2割近くになる。

認知症介護研究・研修東京センターの永田久美子研究部長は「認知症の人は、環境とケアの良しあしで状態が大きく変わる。いい状態で暮らすには、なじんだ地域でなじみの人とつながり続けることが不可欠。小地域ごとに、グループホームのような小規模で良質なケアつきの住まいを計画的に増やすべきだ」と話す。

■認知症の人が入る主な施設

主な設置主体/施設数/利用者数(人)

◆特別養護老人ホーム(特養)

常に介護が必要で、家庭での生活が困難な高齢者らが入所する

社会福祉法人など/7865/51万6800

◆介護老人保健施設(老健)

介護が必要な高齢者らが、リハビリなどをして、自宅への復帰を目指す

医療法人など/3994/34万9900

◆グループホーム

認知症の人が、介護を受けながら少人数で共同生活をする

限定なし(企業中心)/1万2124/17万6900

◆有料老人ホーム

食事や生活支援つきの高齢者住宅。約4割の施設は介護サービスがつく

限定なし(企業中心)/8499/34万9975

◆精神科病院

認知症の人は興奮や幻覚の症状が強いときなどに入院し、薬の調整などをする

医療法人など/1066/22万6885

(施設数や利用者数は昨年7~10月時点。利用者数は認知症以外の人も含む総数で、精神科病院は昨年の1日平均の入院者数。厚生労働省の調査から)

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