介護老人保健施設 仕方なく「老健わたり」

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2015年1月19日05時00分Asahi

写真・図版中部地方の介護老人保健施設にいるイノさんは「ここには友達もいる」と話す

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 ◇第3部 療養不安

介護の現場の一部で、「老健わたり」と呼ばれる高齢者がいる。自宅で暮らすのは難しく、特別養護老人ホーム(特養)にも入れない。仕方なく介護老人保健施設(老健)を渡り歩く人たちだ。

東京23区内に住む女性(91)は2008年に背中を痛め、歩けなくなった。それから3カ所の老健を転々としてきた。

ふりだしは病院の紹介で入った埼玉県の老健だった。「特養とちがい、終身いられる施設ではありません。医師が3カ月ごとに退所の判断をします」。入る前にそう言われた。

車いすから立つ訓練などを受け、半年たったときに退所を求められた。だが、自宅には戻れなかった。

当時の要介護度は2番目に高い「4」。すでに夫を亡くし、息子夫婦と同居していたが、昼間は2人とも仕事があり頼れなかった。

特養はどこも多くの高齢者が入居待ちの状態だった。息子の妻が23区内の老健を探し回り、ようやく顔なじみの職員がいる老健に入れた。そこも1年半で出され、紹介を受けていまの老健に移った。

それから約4年半たつ。この老健の相談員によると、足の炎症で入院したり食道のヘルニアになったりして、「出すに出せなかった」という。

だが、ずっといられるわけではない。「様子をみて、今年半ばには移ってもらうことになると思う」と相談員はいう。

老健は介護を受けることもできるし、医師や看護師がいてリハビリも受けられる。自分で払う費用は特養より少し高いが、有料老人ホームより安くすむ。ただ、けがや病気などを療養して回復させるのが目的なので、本来は長く入り続けることができない。

しかし、自宅に帰れず、特養も入れずに老健に長くいる人は少なくない。

■100歳、入退所3回

東京23区内のある老健では、100歳の男性が13年夏に入ってから、これまでに入退所を3回繰り返している。近くに住む70代の娘の家で1~2カ月過ごし、また戻ってくる。

「こちらからお願いしていったん出てもらう」と職員は明かす。その理由は、介護保険から払われる報酬の仕組みにある。

政府は12年度に介護報酬を改定し、自宅に帰る人を増やしたり、新しい高齢者を多く受け入れたりした老健ほど報酬を加算するようにした。

厚生労働省は、施設が足りなかったり介護報酬がふくらんだりしているので、在宅介護を増やそうとしている。老健にいる高齢者も帰そうと促す。

しかし、100歳の男性が70代の娘の家に帰っても、介護は容易ではない。職員は現実と政策のギャップに悩みながら、出戻りの男性を受け入れている。

1月上旬、秋田県中部のまちは家々の屋根に雪が積もり、正月の松飾りを片づける人たちの姿があった。

このまちの老健にタノさん(92)は5年ほど入っている。系列の病院に入院したこともあるが、退院するとすぐに戻った。

■平均年齢は83歳

この老健も半年で出ていくのは3人に1人しかいない。入所者の平均年齢は83歳。タノさんのように病院と老健を行ったり来たりする人も多いという。

タノさんは19年前に夫に先立たれ、ずっとひとり暮らしだった。5年前にベッドから落ちて動けなくなり、車いすの生活に。ひとり暮らしは難しく、「要介護3」の認定を受けて老健に入った。

2年ほどたったとき、60代の娘は老健の相談員から「そろそろ出て頂いてもいいですか」と打診された。

調理のパートをする娘は月に数万円の手取り収入しかなく、自分の生活で手いっぱいだ。老健にはタノさんの年金から月に6万円の入所費を払ってきた。

娘は特養を探したが、どこも100人以上の入居待ち。有料老人ホームは月に十数万円かかり、とても入れることはできない。

自宅に引き取ることも考えた。だが、働きながらタノさんを世話するのは大変で、老健の看護師からも「引き取れば、あなたが壊れる」と言われた。

老健の理解を得ながら、その後も母を預けてきたが、いつ出ることになるかわからず、不安が募る。

「もともと一人で暮らせなくなり入った人が多い。リハビリしても高齢なのでもとの体に戻ることはない。そのまま自宅へは帰せない」。中部地方にある老健の施設長はそう語る。

この老健では入所者の平均年齢が00年ごろは80歳ほどだったが、いまは86歳になった。半年で出る人は2割に満たず、平均の入所日数は約2年3カ月になる。

イノさん(94)は89歳のときに入ってから、5年がたつ。両足が悪く、車いすでの生活だ。「足がはれて痛くて動かないの。息子の嫁も入院したりして、家に帰っても不自由で動けない。できれば、ここにずっといさせてほしい」

施設長は「帰れるのは、介護する人がいたり経済的にゆとりがあったりという条件がそろった人たちが多い。逆に、老健から出た後の環境が整っていない高齢者も多い」と指摘する。

■「在宅復帰」促す厚労省

厚生労働省は来年度の介護報酬改定でも、高齢者の「在宅復帰」の割合が高い老健にはより高い介護報酬を払うようにする方針だ。老健には自宅で療養できるような支援も求めていくという。

老健でつくる全国老人保健施設協会の東憲太郎会長も「いま入所している高齢者を追い出そうとしているわけではない。ベッドを少しでも空けて、在宅療養する人がショートステイなどで利用するニーズにもっと応える努力をしなければならない」と話す。

厚労省は施設への介護報酬がふくらむのを抑えるため、在宅での介護を重視している。老健からの退所を促すのもその一環だ。

しかし、老健のなかにも「在宅復帰は幻想だ」という声がある。老健を出ても行き先が整っていないという現実があるからだ。

特養は都市部を中心に施設や職員が足りず、入居待ちの高齢者が多い。有料老人ホームに入ろうにも月に十数万円以上かかる。

ひとり暮らしだったり家族の負担が重くなったりして、自宅に戻れない人も多い。実際に、老健から自宅へ帰る高齢者は約3割にとどまっている。

厚労省は退所の難しい高齢者本人と家族に老健の次の行き先の希望を尋ね、昨年10月に結果をまとめた。

通常の老健では、本人は「意思表示が困難・希望なし」が37・6%、「このまま老健」が23・6%、「自宅」が22・5%、「特養」が5・6%だった。家族は「このまま老健」が50・9%、「特養」が33・4%で、「自宅」は4・3%しかいなかった。(松田史朗、本田靖明)

◆キーワード

<「特養」と「老健」> 特別養護老人ホーム(特養)は自宅での生活が難しい高齢者が入り、介護を受ける。終(つい)のすみかにする人も多い。社会福祉法人の運営が多く、全国に約8千施設(13年度)ある。ただ、高齢化に追いつかず、入居を待つ人が約52万人いる。

介護老人保健施設(老健)の制度は1986年にできた。無料で入れる老人病院に高齢者が入院し続ける「社会的入院」が問題になり、これを減らすためにつくられた。医療法人の運営が多く、全国に約4千施設ある。国の基準では在宅への復帰を目指すと定められている。

特養は医師の常勤を義務づけられていないが、老健はベッド数100床につき医師1人、看護職員9人を配置しなければならない。平均の入所日数は特養の約4年に対し、老健は約1年になっている。

■介護老人保健施設と特別養護老人ホーム

<全国の施設数>

介護老人保健施設  3993カ所

特別養護老人ホーム 7982カ所

<ベッド数>

介護老人保健施設  約35万床

特別養護老人ホーム 約52万床

<月間の平均費用(自己負担)>

介護老人保健施設  約7万8千円

特別養護老人ホーム 約6万2千円

<入所している平均日数>

介護老人保健施設   313日(1年弱)

特別養護老人ホーム 1405日(約4年)

<100床あたりの職員らの配置基準>

介護老人保健施設  医師1人、看護職員9人、介護職員25人

特別養護老人ホーム 看護職員3人、介護職員31人

(施設数、ベッド数は2013年度、平均費用と入所している日数は13年。厚生労働省の調査などから)

◇「報われぬ国」は原則として月曜日朝刊で連載します。ご意見をメール(keizai@asahi.com)にお寄せください。

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